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macross個人的創作話 「虹 -マクロス・シティ- 」 【上】

お読みになる前に::::::::::::::::::::::::::::::::::::

この文章は「超時空要塞マクロス・愛おぼえていますか」
をベースとした”二次創作”です。
キャラクター・映画のイメージを壊したくない方、ハッピーエンドを望む方は
ご遠慮下さいね。

「愛・おぼえていますか」の本編をご覧になった方は、廃墟から帰還をしたあと、
未沙と輝の一日、の位置づけでお読みいただくと少しは意味が分かると思います(笑)
未沙の気持に重きが出ています。
この場面の二次創作は沢山の方がお描きになっていると思います。
よって余計に駄作がバレる、というものでありますが・・・。

話を【上】・【下】に分けてあります。それではどうぞ。

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「虹 -マクロス・シティ- 」 【上】





艦長室を出ると、長い廊下を緩やかに歩き始めた。
帰還できて嬉しい、のだが。
みんなの顔を見たい・・・と思うのと同時に地球の惨状は伝わっているとはいえ、自分の口から話さなければならないと思うと気が重い。
それから。
この先の通路が交差するところで一ヶ月の間2人きりで過ごした人間と離れる時が来るのだ。

未沙は心を決め、輝に向かった。
「一条君。私、ブリッジのみんなに挨拶へ行ってきます。」
「そう。それじゃあ、僕もラウンジにでも行ってみようかな。」
「・・・では一条君。」
「・・・・。」
輝は軽く敬礼で返した。
未沙も額に手を上げそれに答えた。それに軍の仕来りをポーズして応える輝がなんだか他人行儀に思えた。

波打つ音を枕にして眠った海岸線、アルティラ古代宇宙船・・・。
離れがたい気持ちは認めていたが、先に輝の背を見送るのはなんだか嫌だった。未沙は口元を締め、踵を返し、廊下を歩き出した。

『あしたのお休みを一緒に・・・』
プライドなのか、臆病なのか。その一言が、言えない。
胸ににぶい重みが湧き出した瞬間
「大尉!」
と未沙の背中に輝の声が響いた。
未沙は思わず踵を上げ背伸びをした。が、気づかれないように姿勢を正したふりをし、ゆっくり振りむいた。
輝がまっすぐ歩み寄り、未沙の正面で言った。
「あの、明日ですけど、久々に街へ出かけてみませんか?」

街とはマクロスの中に作られた街だった。
胸のつかえが流れ落ちたのに、未沙は態度に出さず、声を抑えて真顔のまま輝に答えた。
「・・・ええ、そうね。せっかくもらったお休みだし、そうしましょうか。」
「うん。じゃあ、あしたお昼にタイムズスクエアの前で。」
「分かりました。」

輝は手を高く上げてそのまま駆けていった。
『嬉しかったのに。マクロスへ戻ると素直じゃなくなるのかな、私。』
未沙は自分に呆れつつも、自然と胸が踊るのを認めていた。

しばらくもの間、あるじが留守していた部屋の扉を開けた。
・・・ブリッジの面々は未沙を温かく歓迎してくれた。杞憂を裏切り、彼女を労わって懐かしがってくれた。就くべきところに自然と戻れそうだと思った。
ただ・・・艦長室のあと、クローディアは姿を見せない。・・・どこかで一人泣いているのかもしれない・・・。

ドアを明けると、部屋の中はキッチンもベットも、すべてあの夜のままだった。
・・・なにか苦々しい気持ちで軍人クラブから戻り、シャワーを浴びて一息つく間もなく鳴ったけたたましい電話の音。突然の招集はめずらしいことではなかったが、待っていた出来事はまるで予想だにしなかった。
・・・一条輝がまた手を煩わしている。
こんなことで、の非常勤務はとても腹立たしかった。
憂鬱を押しだまらせて向かった先にはまさに予測しない運命が待ち受けていた・・・。

低い音を立てる冷蔵庫を開けるとしばらく閉鎖されていたそこにはミネラルウォーターとオレンジジュース、それとしぼんだグレープフルーツが一つあった。朝食のために用意しておいたものだった。
小さくなった果物を手に取ると時間の経過を感じる。冷え切ったそれらをダストシュートに転がし、そこはふたたび暗く閉じられた。

エアーコンディションをonにすると空気が流れ出した。
ベットの脇に座り溜息をつけば、腰の下の柔らかさに誘われ、身体を滑らせたくなった。

その誘惑に負ける前にシャワーを浴びなければ・・・。

バスルームへ行き、乾いたレバーをひねると温かい湯が豊富に床を叩きだした。クローゼットから身支度を用意し、未沙は長い間、身体を包んでいたアンダースーツを剥ぐようにして脱いだ。いくら頑丈に製造されているとはいえ、探索に明け暮れ、着込んだスーツはほころび出している箇所もある。

湯気がバスルームに充満していた。
肩からそっと湯に当たると身体の芯から溶けるようだった。顔に腕、足、首。腋や胸元を熱い湯が流れ落ち、不安やいろいろな感情も流れて排水口に吸い込まれていくようだった。
水滴の輪の中で髪をほぐす。髪のヨリもシャンプーに梳けてさっぱりする。
泡立つスポンジで首筋を洗っていると、ふと“存在”を思い出す。
自分とは違う、張りのある髪。並べた肩の硬さ。支えられた腕の確実性。
そして、しっかりと息づく体温。
輝が刻んだ跡を未沙は少しだけ辿った。湯の温度と相乗し、未沙の頬を桃色に上気させた。
未沙はふと、愛しみを思い出している自分にうろたえ、ひとり、つじつまの合わないかぶりを振った。思わず水量のレバーを多めにひねった。
水滴と湯気が未沙の姿を包み、暖めつづけている。

バスルームを出て、体の雫をタオルでぬぐい、顔を鏡に映す。
前髪が額に張り付き、その合間から覗きこむと前より少しほっそりした頬が映った。その割には目にも口元にも力が宿っているように感じられた。ちょっと人見知りするような気分だった。
早瀬未沙・・・私。

未沙はのどの渇きを覚え、冷蔵庫のミネラルウォーターに手を延ばした。ボトルの栓をひねり容器にも移さずそのまま体に注ぎ込んだ。ボトルの中は3分の1ほどになり、未沙は唇を離してため息をついた。

ここは風の音も波の音も聞こえない・・・。
あんなにも待ちかねた帰還なのに、なんとなく持て余している。
髪から滴る雫が膝に落ち、冷たさに我に返った。
髪を傾けてタオルで被い、ベッドの横に腰掛けた。

髪が乾きはじめ、身支度を整えると、未沙は瞼にだるさを感じた。
レポートを書いておかねば・・・お掃除だってしなければならない。
でも夜までまだ時間はある。少しだけ横になろうか・・・。
未沙は体の欲求に従い、手足をベッドに伸ばした。
目を閉じると、胸にふつふつと小さく点る愉しさがあった。
横になれば疲労に引きずりこまれ、這い出す力が残されていないことに未沙は自覚が無かった。
解放された四肢はベッドに沈んでそれきり朝まで動かなくなった。
                       

タイムズスクエアは多くの人が行きかっている。

未沙らしくもなく出掛けに慌てた。着ていく洋服、久々に引く口紅の色を散々迷った末、結局は使い慣れているものを選んだ。

急ぎ足でタイムズスクエアのバルコニーに向かうと、すでに輝が待っていた。それを認めると自然と頬が上がるのが分かる。
「一条君。」
「大尉。」
「お待たせしてごめんなさい」
「こっちも今来たところ」
輝は全く疲れを感じさせなかった。
未沙は再会を懇願していた街をいとおしく隅々まで見渡した。
「・・・この街は相変わらずね。」
「ああ。本当に。」
陽気な音楽が流れ、昼でもアドボードはきらびやかにまたたいている。
街路樹が揺れ、人々は歩き、話し、笑う。全てが平和を象徴していた。
「昨日は良く眠れた?」
「うん・・・それが、ちょっとのつもりで横になったのにすっかり朝まで眠っちゃって。」
「実は俺も。あんなベットでも快適すぎてね。」
互いに笑顔を向ければマクロスシティに溶け込んでいく。
未沙は深呼吸をした。安堵感がじわじわと体に染み渡っていく。

突然聴き覚えのある歌声が聞こえた。ふと見上げると目の前の大きなスクリーンにミンメイの姿が映っていた。
「ああっ・・・!ミンメイ」
輝が声をあげた。
「・・・。」
しどけなく歌うミンメイの姿は生々しく、魅惑的だった。
ミンメイがゼントラーディ軍に捕らえられたまま行方不明になっていることは市民の不安を煽ったり、スターの失踪に失望しないよう内密にしているのだろう。
市民から愛され、輝とともに宇宙に飛び出したミンメイ。
未沙はそんなミンメイが一瞬、うとましく思えた。未沙はつい思ったままを口にした。
「・・・不思議ね。ミンメイさんはどこかに行ってしまったのに、今もスクリーンの中で歌っている。」
言い終えたとたん、ハッとした。隣にいる人間の反応が怖かった。
(・・・うそ。ミンメイさんの死を匂わすような事をいうなんて・・・)
放された言葉を元に戻せるはずはなく、未沙は呆然とした。

「・・・なんだか懐かしいな。」
「・・・懐かしい?」
未沙は輝の言葉が意外だった。過去をたどるような口ぶりだった。
「ミンメイと宇宙に飛びたしたこと、もう随分前のような気がしてね」
「・・・そう・・・。」
未沙はいたたまれない感じがして、階段を下り始めた。

・・・ミンメイが生きていれば一心に輝を思っているに違いない。
私が”あの人”のことをそうだったように。永遠の別れなんて、まるで想像もせずに。
しかし彼女のやりきれなさをどうすれば救えるのだ。彼女の想いの相手は今、自分の隣にいるのだから・・・。

「・・・ねえ、昼メシはまだ食べてないよね?」
上から輝が声をかけてきた。未沙はゆっくり振り向いた。
「・・・あ。まだ・・・よ。」
「なにか食事にしない?」
「そうね・・・。じゃ、なににしましょうか。」
「そうだな・・・腹ペコだからなんでもうまいと思うけど」
「昨日は何を食べたの?」
「なんにも」
「まさか・・・ぜんぜんなにも食べてないの?」
「うん。部屋に帰って横になったらそのまま朝さ」
地球で食料を精力的に捜し求めていた輝がなにも口にしていないことが意外だった。はるかにたくましく生き抜く姿勢に満ちていたと思っていたが、やはり輝の肉体も疲れていたのだろうか。

地球で二人、熟れたステーキを食べる真似してみたが、迷った末、日本料理店に入ることにした。寮の食事ではあまりお目にかかれない日本料理を輝が選んだのだった。
てんぷらや刺身は、ぎりぎりの食料でしのいでいた二人の味覚に圧倒的に訴え、二人は舌鼓を打った。
重くなった腹を抱え、店を出た。
「ああ、うまかった。最高だ。」
「本当。こんなに美味しいと思ったこと無いくらい美味しかったわ」
「宇宙でまともな食べ物を食べられるなんて、なんかヘンな感じ。」
「空腹だったらなんでも美味しいものよ。」
「こういうの食べると、地球での生活がうそみたいだな。」
「・・・最初は魚なんか面食らったけどね」
「そうだな。まあ、命をつなげることができたんだから感謝しなくちゃな」
「ええ。」

「・・・これからどうする?」
未沙はすぐにあてが浮かばなかった。
「・・・ねえ、ちょっとこのまま歩かない?」
「うん。オッケー。」
メイン通りを歩いたあと、人ごみを避け、裏道を歩いた。
少し前を歩く輝の、制服以外の背中が新鮮だった。
軍服とは違うやわらかいシャツに映る均整のとれた肩が頼もしかった。

”・・・この私が男の人と歩いている。しかもパネル越しにケンカばかりしていた相手と・・・ね。”
想いを実現するのはいつだって夢の中だった。相手は火星に消えたひとりしかいない。
しかし今、未沙の隣にはブーツの足音を鳴らす、男性がいる。

しばらく歩けばその先に未沙の好きな並木道があった。そこから未沙が誘導した。
そこは長く街路樹が植えられている。人工の風が葉を揺らす。未沙の長い髪をもさらさら揺らした。
レンガを轢き詰めた並木道の行き止まり、広場に到着した。その中心には大きな噴水が設置されており、力強く高く水が吹き出ている。
その溜まったきらきらと輝く水面に、幼児が手を延ばしてはしゃいで水を放っていた。それが宙を舞って光を反射する。
輝が先に噴水を囲むベンチに近づいて、『ここでいい?』と言った。
未沙はうなずいて歩み寄り、木陰のベンチに座った。
「なにか飲み物でも買おうか?」
「ううん、私は大丈夫。一条君は?」
「うん。少し喉が渇いたな。・・・おーい、自販機ロボット!こっちに来てくれない!」
同じタイミングで呼ばれたのか、移動式自動販売ロボットは他の方向へ行ってしまった。
「おーい!ちょっと!」
ロボットは寄ってくる気配がない。
「しょうがないな。ごめん、ちょっと待ってて。」
輝は駆け出した。
未沙はひとりベンチで膝をそろえた。
そよぐ風が心地よく、膝に木々の葉がちらちらと影を作っている。
吹き荒れる嵐や雷、攻め立てる波はマクロスには存在しない。ありふれた風景に未沙は目を細めた。

「あっ・・・。」
噴水の先に思いがけないものが現れた。
虹だった。
空に模した天井に虹が架かっていた。
未沙は思わず立ち上がった。
人々も気づきあちらこちらで感嘆があがっていた。

ブルー・ピンク・イエロー・グリーン・・・。

こんな美しい架け橋ならば、天使もすべり降りてきそうだ、と思った。

「・・・へえ・・・虹?」
すぐ後ろで声がした。飲み物を手に戻った輝だった。
「艦内で虹が架かるのか・・・。」
輝は額に手をかざして眺めた。

輝は・・・覚えているのだろうか。廃れた塔のバルコニーから見た虹を。
金色の空にかかった虹のあまりにもの鮮やかさを見て、かすかな希望さえ湧いた。

「・・・知らなかったよ。」
「私たちがマクロスを離れている間に技術班が開発したのね。」
「本当、きれいだな。」
「街の人たちも楽しんでるみたいね。」
「そういえばさ、虹を見たとき、願いごとすると叶う・・・って」
「願い事?」
「そんな言い伝え、なかったっけ。勘違いかなあ。」
輝が言い終えたとたん、虹はだんだんと溶けるように薄くなっていった。
ついに虹は消え、二人の目には見慣れた”街の天井”が映っていた。
「消えちゃった・・・。」
「消え方も本物の虹、そっくりね。」
未沙は再びベンチに腰を下ろした。
輝が続いて座り、飲み物のフタをひねって一口飲んだ。ごくり、と喉が音をたてた。
「地球とはうらはらにここは平和そのものだね。」
「そうね、今はね・・・。風と光、朝日に夕日。人工的な作られた一日なのにあの地球以上に自然に思えるかも。ちょっと悲しいけど。」
「そうだな・・・ここにいると地球の惨状が信じられないな。」
「うん。でもマクロスには希望がある。そう思いたい。」
「さすがは大尉。」
「ううん。そんなことないわ。」
「・・・そんな地球で一ヶ月も過ごしてきたんだな。俺たち。」

未沙の膝から陽が落ちはじめ、少し風が冷たく感じた。

「・・・そうだ!」
輝が思い出したように声をあげた。
「バルキリーに荷物、置いたままだったんだ。修理に格納されるだろうから、その前に取りに行かないと。大尉の集めたおみやげもあるし。」
「おみやげ?!」
「えっと・・・おみやげ、とは言わないか、ははは・・・。」
未沙は輝の発言がおかしくて声に出して笑った。一瞬にして体があたたかくなった。
「そうね、一応物的証拠よ。できれば回収しておきたいわ」
その中には海風吹くあの部屋で、心を重ねるきっかけになった幻想のディナー・・・食卓を彩った食器たちを置き去りにするのが忍びなく持ち帰ってきた。
他には文字の書いてある金属プレート。解読すれば異星人のわずかなことでも判るかもしれない・・・。

「うーん・・・」
そんなことは気にもかけていないように、輝は自由に伸びをしながら立ち上がった。
「・・・そうだな、夜までに取りに行けば大丈夫だと思います。・・・さあ、それよりも、思いついた?」
「え・・・。」
「行きたいところ」
「ああ・・・そうね。でも」
未沙は言葉を止めた。
「それって・・・また命令にならない?」
「えっ・・・。」
輝がゆっくり頭を振った。
「思うわけないよ。今日は僕が誘ったんだ。」
すらりと輝が言った。
未沙のみぞおちがどくんと動いた。
「・・・ええ、分ってる。」
未沙はそれだけ言うのがやっとだった。
頬は火照り、背中も熱い。今は風が冷ましてくれるように、と願った。



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by peppermint_y | 2002-08-01 17:01 | anime | Comments(0)
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